安寧の日々は灰燼に帰した――
二千年続いた皇帝の時代はたった一人の男によって終わりを告げる。
鉄壁であった<<呪壁>>は崩れ、世界の統一を狙う共和国の手に皇国は堕ちた。
たった一人残された帝位継承者「宮国朱璃」の存在は皇国臣民に知られる事はなく、
「翡翠帝」を担ぐ小此木時彦の共和国への属国化は着々と進み、かつて皇国の剣として活躍した「武人」は姿を隠した。
記憶を失った男と存在を消された少女が出会う時、「愛と忠義のADV」が幕を開ける――
ってな感じのプロローグで始まる本作『千の刃濤、桃花染の皇姫』。
前作の「穢翼のユースティア」をプレイされた方なら違和感なくプレイ出来るシナリオだと思いますが、もし、プレイされていない方で『AUGUST』にライトなイメージを持ち続けていたとしたら、びっくりされるかもしれません。
そう、今までライトでキュートな作風だった『AUGUST』ですが、「穢翼のユースティア」からはハードな路線も開拓していくブランドに生まれ変わったのです。
あ、ハードといってもエロ面ではなくシナリオ面の話ですからね?
陰謀アリ、戦闘アリ、血飛沫アリ、そういったハードさ、重苦しさを切り捨てず、活かしていこうという事です。
そんな突然の方向転換は前作において成功を収め、本作『千の刃濤、桃花染の皇姫』はその第二弾といった立ち位置。
......だと思っていたのですが、どうやら今回は純粋にハード路線を継承したワケではなかったようです。
一貫して貧富の差や依存心、上に立つ者の重責を描いた前作の暗さと違い、本作『千の刃濤、桃花染の皇姫』は忠義や愛でシナリオに重さを与えつつ、中盤までの学院生活でラブコメチックな楽しみも用意されています。
これは、今までのライトな作風と新たに生み出したハードな作風を掛け合わせた結果生まれた空気感なのではないでしょうか?
集大成といえば聞こえが良いですが、これは少し失敗だったんじゃないかと私は思います。
学院の和気藹々としたシーンや、
本来の立場に戻ったキャラ達の修羅場で落差を作り、
悲壮感だったり意外性を出したかったのかもしれませんが、せっかく重厚なシナリオだったモノを敢えて軽くしてしまったため、なんとなく浸りきれなかったというか、ご都合主義を感じてしまいました。
そもそも反乱分子の武人である主人公が堂々と共和国運営の学院に通っている時点で何となく釈然としませんよね?
いや、まぁ、ちゃんと怪しまれていたり、通えている理由は作中で語られるのですが、やはり少し「ご都合主義」が拭えません。
その他にもメインヒロインである朱璃の身分詐称が万能すぎたり、なんだかんだ気になる点が多い気がします。
そういった「物語の説得力が弱い」点が本作のシナリオを素直に褒めれない一番の要因でしょう。
無理矢理に学院要素を入れるくらいなら無かった方が良かったかもしれません。
ルート分岐に関しては前作「穢翼のユースティア」や、別ブランドの名作「車輪の国」等でお馴染みの、本筋であるメインストーリーから階段上に分岐する形。
つまりどういう事かというと、従来の共通ルート→個別ルートではなく、章ごとにスポットが当たるヒロインが交代していき、メインストーリーから脇道に逸れてサブヒロインルートに入る形。
そのため、シナリオ上にある伏線の回収は細々としたモノを除けば、最後まで朱璃に忠義と愛を捧げなければ見られないのです。
個人的にこの分岐方式が大好きなのですが、お気に入りのヒロインの分岐タイミングが序盤だった場合、それ以降、登場シーンが激減するといった欠点もあります。
超絶オススメヒロインの義妹偽帝「鴇田奏海」ちゃんが正にソレだったため、危うくキーボードクラッシュする所でした(笑)
とはいってもサブヒロインルートはどれも「長さ」や「内容」がシッカリ作られているためクオリティ面に対しては不満はありませんでした。
長いお付き合いになるメインヒロイン「宮国朱璃」ちゃんが序盤からしばらくヘイト溜めキャラなので、少し不安になると思いますが、安心して最後までプレイして下さい。
ちゃんと成長します。
個人的にオススメのヒロインは義妹ちゃんですが、学院シーンが少なくなる中盤~終盤は先に書いた「ご都合主義」的な説得力の無さは薄れるので、個別ルートオススメは断然「宮国朱璃」ちゃん。
初回プレイからいきなり朱璃ルートに辿り着けてしまうため、これからプレイする方は「宮国朱璃」の攻略は最後にする事をオススメしときます。
色々とネガティブな事を書きましたが、他のエロゲーに比べたらシナリオの出来は雲泥の差なので、気になったら即買いくらいのスタンスで良いと思いますよ!